大学での精神科研修1年目のこと。ちょうど1月の下旬から2月の上旬には、外来がほんの少しだけ活気付く。私には関係ないことだけど、男性の医師は患者さんからプレゼント(主にチョコレート)をもらう。そのためには日ごろからの行いが大事なのだが、このあたり俄かにめかしこんだり、丁重になったりする人もいて思わず失笑をしてしまう。
その当時、わが精神科講座には一条先生というカリスマドクターがいて大変な(重い、デリケートな)患者さんをたくさん担当していた。横で見ていて、もらうこともらうこと、それも包装からしても高価そうなものばかり…
2月の14日をだいぶ過ぎて一条先生が病棟に放置していたチョコレートがあって、nishimaはそれが気になって仕方なかった。それで思い切って一条先生に言ってみた。
「あれ?あー悪いことしちゃったなぁ。思い出させてくれてありがとう、お礼に、にしまーにあげるよ」
当時nishimaの収入は乏しく(大学所属は貧乏なのである)あんな高そうなチョコレートのような、高価な食材など縁がなかったのである。医局(お医者さんがご飯を食べたり休憩するところ)に持ち帰ると、トリシマがタバコをすっていて数人の研修医が休憩していたので、みんなで分けることにした。
研修医こじかくん
「わー、包装からして高そうですなぁ、銀座○○ですかぁ。俺もこういうもん
もらえるようになりたいですなぁ」
後ろからもう一人南川先生という上の先生が通りかかる。
「nishima先生どうしたんですか、この高そうなチョコレートは」
「一条先生のバレンタインのおこぼれですよ」
横からトリシマがぼそっという。
「チョコレートからして俺たちとは違うよな」
南川先生もボソッと
「まったくだ…」
トリシマのつぶやきに南川先生が相槌を打つ。
「今年はなぁ、俺がポッキーで南川先生が森永チョコボール」
「そ!」そして二人そろって、
「………比較対象があると悲しくなるよな!!」
その後、一条先生はカリスマらしく2段階特進でどっかの教授になったという。nishimaも貧乏からは開放された。(ま、トリシマからは開放されていないのだけど)トリシマは患者さんから何かもらうと見せびらかすようにおすそわけをくれる。それはすべて安いものだったり患者さんが自分で作ったものだったりするけど、比較対象があると悲しくなると言った割には嬉しそうに「さ、にしまー食え食え」と人におすそ分けをしながら食べている。
そういえば病院の表玄関には「スタッフに贈り物をしないでください」とあり、まったくそのとおりではあるのだけど、こういったささやかなものに関してはどうなのだろうか。もちろん、あんまり高価なものになると正直困るというのが正直な気持ちではある。今思うと、一条先生があの高そうなチョコレートを持ち帰ることができなかったのは気持ちが重すぎて無意識が作用して受け取ったものの、持ち帰ることができなかったのかもしれない。それは一条先生しか分らないことだけど。
♪コメントは掲示板へ♪