心理じゃなくて世界観

すっげぇ大音量でエレキギターなのか何なのかよくわかんない音色が響いていた。そっちが気になって気になってしょうがないけど、3階の病棟のほうに急ぎの用事で呼び出されていたから、確認すらしなかった。


3階のスタッフに「なんか楽器の音がするよね?」と言っても自分たちの持ち場の出来事じゃないから「そうですか」というつれない返事しか返ってこなかった。


3階病棟での僕の仕事はもっぱら高齢の患者さんの身体管理、つまり内科。精神科って精神分析やカウンセリングばっかりしているイメージがあると思うけど、それは違う。圧倒的に体を診る方が多い。


脱線する。「診察しちゃうぞ」というキャッチフレーズのネット上の精神科医(?)がいるけれど「診察しちゃうぞ」、というのは、精神疾患の方やカウンセリング・精神療法が必要な病態の方には若干失礼なのではないかと思う。あんたおかしいから「診察しちゃうぞ」の匂いがするのは僕がおかしいからだろうか?普通なら「診察させていただく」だろう。ひとの心を扱うのは人の家の寝室に上がりこむような行為。だから失礼しますといってあがるもんだろう。しかし、「診察しちゃうぞ」な、平気で覗き込むような精神科医は実際には多い。


こんなときに、ああいう人たちとは世界観が違うのだと思う。どっちが正しいとかそういうのは実際病気を持った人に決めてもらうしかない。それを世界観の違いという。


閑話休題。


そして3階でのデューティを終え、階段を駆け下りると、2階の開放病棟でよく見かける患者さんが、達者にナイロン弦のクラシックギターを弾いている。エレキギターのように聞こえたのはチューニングが狂い、階段が音を変な風に増幅させていたからだ。


2階病棟詰め所に「患者さんがギターを弾いてたよ」といって入ると、スタッフが「ああ、中村さん(仮)ね」「ギター上手よね」と言う。確かに上手なのだけど、ほかの患者さんにうるさがられて仕方なく時々階段で弾いているのだという。


開放病棟には時々楽器を弾く患者さんがいて、仲良しになると長年の愛器を触らせてくれたりする。研修医のときにさび付いたフォーク弦を見ておられず、一緒に駅前の楽器屋まで行き、張り替えたこともあった。


こんな光景には、あるがまま認めるべき世界観はあっても、覗き込むべき深い心理なんかは間違っても出てこない。でも、患者さんに限らず誰にとっても生きていくには世界観が大事だと思って今日も中村さんの弾くギターの音に立ち止まる。
 
♪コメントは掲示板へ♪


*初出:2005.12.20茶房店主日誌「音色」

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